大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)322号 決定 1962年5月09日
理由
証拠によると、佐藤豊は昭和三四年三月一〇日抗告人より本件競売手続の目的物である建物(省略)のうち二階二坪八合一勺の部屋を賃料月額一〇〇〇円と定め、期限を定めないで賃借し、一条沙都子は同年一〇月六日抗告人より本件競売手続の目的物である建物(省略)のうち二階三坪の部屋を賃料月額七五〇〇円と定め、期限を定めないで賃借したことが認められる。しかし、証拠によると、抗告人は、これより先昭和二三年八月三〇日播州信用金庫(以下債権者という)との間に前示各建物について抵当権を設定する旨契約し、同日その旨の抵当権設定登記を経由していることが認められる。すると、佐藤、一条の右各部屋の賃貸借には、借家法一条の二の規定の適用があるものというべきであり、その解約申入について厳重な制限があつて、その解約は著しく困難であるというべきである(右各賃貸借契約の解約申入をした場合、それの正当事由があることを確認するに足りる証拠はない。)から、前示各賃貸借は民法六〇二条にいわゆる短期賃借権に包含させるべきではないと解するのが相当である。したがつて佐藤、一条は右賃借権をもつて抵当権者たる債権者、したがつて競落人に対抗することができないから、これを競売期日の公告に掲載することは必要でない。